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【導入事例:AutoForm-ThermoSolver】新基準としての テーラード・テンパリング

事例紹介

安全性向上・軽量化の自動車生産技術

AutoForm-ThermoSolverは1年の試験期間を経て、ダイムラー社にて2012年より生産現場にて活用されている。本ソフトウェアは複雑な工程戦略でも計算できるため、部品生産時の材料特性に対する熱機械の影響を、より正確に考慮すること
ができる。また、冶金計算モデルに関する追加情報によって、シミュレーションの妥当性と情報量が高まり、さらに、テーラード・テンパリング工程の徹底的な試験によって、従来の加工硬化に対する理解も深まる。熱変形の計算については、さらなる研究が必要であるが、今後もダイムラー社と当社による共同研究が進められる予定である。

このカタログについて

ドキュメント名 【導入事例:AutoForm-ThermoSolver】新基準としての テーラード・テンパリング
ドキュメント種別 事例紹介
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登録カテゴリ
取り扱い企業 オートフォームジャパン株式会社 (この企業の取り扱いカタログ一覧)

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このカタログの内容

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Case Study 新基準としての 材料は以前と変わらず、鋼材である。世界には何千種類もの鋼材が 存在する。そのなかから自動車に最も適し、かつ技術的に加工可能 テーラード・テンパリング な鋼材を選ぶことが、軽量化の真髄である。そして近頃、最も注目さ 安全性向上・軽量化の自動車生産技術 れているのが、高張力鋼板および超高張力鋼板である。 これら最新の材料は、より少ない消費量で乗客の安全に対する要 オートフォームジャパン ミハエル・ケラウシュ 求を満たし、また綿密に計算された形で、事故時の衝突エネルギー を軽減させることも可能にする(図1、図2)。これがメルセデス・ベン エヌキャップ 新しい自動車の生産にあたって、乗員の保護設備やユーロNCAP ツ新型Eクラスのホワイト・ボディの約75%が、高張力鋼板や超高 (European New Car Assessment Programme:ヨーロッパ 張力鋼板の等級である理由である。また、これは乗用車開発部門の 新車アセスメント・プログラム、ヨーロッパで実施されている自動車 ピーク値と考えられている*。 安全テスト)の衝突試験における5つ星の獲得は、消費者の購買決 定に大きく影響する。 テーラード・テンパリング しかしながら、乗員の安全確保には自動車の重量増加が伴い、そ 熱間プレス成形のなかでも特殊な手法である加工硬化を通じて、 れは燃費にも影響する。自動車メーカーは、この相反する要求に応 超高張力鋼板のマンガン・ボロン鋼材(22MnB5)による車体部品 えるため、すべての構成部品の適切な軽量化に取り組んでいる。 が製造された。これには複数の手法があるが、基本的に直接および ホワイト・ボディ(エンジン、シャーシ、エクステリア、インテリアな 間接の加工硬化が採用されている。 どの部品が配置される前の車体構造を形づくるメタルシート部品が テーラード・テンパリングの手法は、最も信頼できる世界の新基準 溶接された段階のもの)の軽量化においては、適切な材料を選択し、 (ゴールデン・スタンダード)となりつつある。テーラード・ブランク(鋼 それを使いこなすことが重要である。高張力鋼板や超高張力鋼板の 種や板厚が異なる複数の素材を溶接により1枚とし、プレス成形す テーラード・テンパリング(局部焼入れ)が成功の鍵となるが、それは る技術)と異なり、シート・メタル全体に、局部ごとに適切な熱間プ 多くの困難な課題を伴うものであり、コンピュータによるシミュレー レス成形を行ない、その後に温度に誘因される冷却工程を行なう。 ションが大きな役割を果たす。 この手法では、強度の高い領域と延性の高い領域を組み合わせるこ かつての新車モデルは、その世代ごとに重量が増していたが、近 とが可能となる。 年はこの傾向が崩れつつある。複数の自動車メーカーによる新車モ 構成部品の特性に応じて厚さや強度の異なるシート・メタルをつ デルは、旧型モデルよりも50~100kg以上も軽量化されている。 なげる、この溶接のテーラード・ブランクとの比較において、テーラー 車体の大型化、装備の追加、運転者支援システムや衝突安全性の向 ド・テンパリングの利点は、ひとつのピースから部品がシームレスに 上にも関わらず、軽量化に成功したのは、非常に多くの仔細な対応 生産されることである。溶接された領域間の“デジタル”的な接合に を積み重ねた結果である。 代わり、高強度と高延性のゾーンの間には緩やかなつなぎ面が存在 とくにホワイト・ボディには、顕著な対策がほどこされている。モデ する。これは機能的に最適化された部品、つまり衝突要件を満たす ルのサイクルについては、その重量が比例的に削減されているが、主 部品の設計における理想条件である(図3、写真1)。 高張力鋼 56% 最新の高張力鋼 8% 超高張力鋼 3% 超高張力鋼(熱間圧延) 5% アルミニウム 8% プラスチック 3% 軟鋼 軟鋼 17% 高張力鋼 最新の高張力鋼 超高張力鋼 [材料と構成部品の軽量化] アルミニウム [高張力・超高張力鋼板の利用率約75%] 図1 新型Eクラスの安全コンセプト 図2 Eクラスのホワイト・ボディ
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Case Study メルセデス・ベンツ新型Eクラス [構成部品による強度特性の局部的違い] 図3 衝突時エネルギーの分布 [局部焼き入れ工程を経て局所的な強度特性を持つ] このように、従来の冷間プレス成形部品のコンセプトから、重量 の大幅な削減が可能となる。この手法では、従来の加工硬化による 写真1 フロント・バンパーの支持部品 生産よりも、たとえば自動車のBピラーの衝突性能は向上し、また 強度のある薄板での生産が可能となる。またフォーム金型の形状や 造変化に関する深い理解が必要である。この手法は複雑であるた テーラード・テンパリング工程の実施方法をより詳細に検討するこ め、その工程設計にコンピュータによるシミュレーションを活用する とができる。材料挙動をよりよく理解するには、熱流量や相変態の ことは必要不可欠となる。しかし、シミュレーション・ソフトウェアに 挙動を把握しなければならない。 は、熱間プレス成形やクエンチング工程を現実的に表現すること、そ して最終部品特性を高精度に予測することが求められ、その結果、 シミュレーションによって深まる理解 この特殊な熱間プレス成形の技術情報が蓄積されてゆくことが重 テーラード・テンパリングの解析やその最終確認には、材料の構 要である。
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Case Study 接 触 相変態 上部マウントプレート 冷却管 加熱装置の管 発 熱 接触プレート 機 械 熱 冶 金 圧力ピン 冷却 加熱 ポジショニング・ボルト ディスク・ スピン・ ベース・ 機械的特性 潜 熱 サポート プレート 下部マウントプレート 図4 AutoForm-ThermoSolverにおける機械、熱、冶金特性の相互作用 図5 熱機械冶金モデルの試験用金型の検証 当社はこれを目標と定め、熱機械冶金モデルを実行するシミュ ばならない。機械特性については、シート・メタルの塑性変形を考 レーション・ソフトウェア「AutoForm-ThermoSolver」を開発した。 慮し、冶金の観点からは、冷却による相変態を考慮する必要がある このソフトウェアはシート・メタルの任意の材料点における温度履歴 (図4)。 をある程度まで提供するため、熱間プレス成形やクエンチング中の 材料挙動に関する理解を深めることができる。 理論と実践の組み合わせ 予測を妥当な精度にて行なうには、関連のあるすべての現象や 実験や検査の結果、当社は、熱機械冶金モデルを検証し、そのほ その相互関連をモデル化する必要がある。熱特性に関しては、シー かの決定的なパラメータを特定した。ダイムラー社との共同研究に ト、金型および環境間の熱流量、つまり輻射や対流も考慮しなけれ おいて、実験用の試験金型を開発(図5)、ニュルンベルク大学(ドイ ツ)の Institute for Manufacturing Technologyにて分析的な 試験が行なわれ、当社はAutoForm-ThermoSolverのパイロット 版を提供した。ここでは工程ウィンドウおよび工程パラメータに応じ た材料特性について研究が進められ、基礎的な専門知識が蓄積さ 500℃ れた。 450℃ ダイムラー社はBピラーの金型を作成し、最新の研究結果を実部 25℃ 品の生産に適用、シミュレーション結果のクオリティを検証した。そ して小ロットのBピラーをジンデルフィンゲン工場で生産し、機械特 性を詳細かつ広範囲に分析した。部品の複数領域からサンプルを抽 750 MPa 850 MPa 出して引張試験を行ない、ダイムラー社および当社の専門家が、結果 1500 MPa を詳細に検討した(図6)。 シミュレーション・モデルには、結果の精度を決定づけるすべて 図6 Bピラーのテーラード・テンパリング(局部焼き入れ)による の物理的な影響を取込む必要がある。妥当な計算速度を維持す 引張強度の違い るために、二次的な影響は除外した。この試験を通じて、冷却工程 中の潜熱も考慮する必要があるという結論に達した。その結果、 AutoForm-ThermoSolverは、最終部品特性を非常に高い精度で 計算できるようになった(図7)。 引張強度、板厚、応力分布、および硬さやマルテンサイトの分布な どの結果も、グラフィック表示にて明確に表現される。テーラード・ 実験 テンパリング工程の計算時間は、従来の成形と比較して、平均して シミュレーション 5%ほど長くなった。しかし、工程に対する理解が深まることを考え ると、この超過時間は妥当と考える。 ダイムラー社、AutoForm-ThermoSolverを採用 図7 シミュレーションによる引張強度計算 ダイムラー社と当社による共同研究の目標は達成した。 引張強度(MPa)
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Case Study AutoForm-ThermoSolverは1年の試験期間を経て、ダイムラー社 ンジニアは、材料の構造変化に関する理解を深めることができ、ま にて2012年より生産現場にて活用されている。 たそれを制御することが可能になる。 本ソフトウェアは複雑な工程戦略でも計算できるため、部品生産 時の材料特性に対する熱機械の影響を、より正確に考慮すること 今後の傾向 ができる。また、冶金計算モデルに関する追加情報によって、シミュ 加工硬化技術やテーラード・テンパリングの導入には、膨大な作 レーションの妥当性と情報量が高まり、さらに、テーラード・テンパ 業と投資が必要である。まず加熱炉および操作システムが必要とな リング工程の徹底的な試験によって、従来の加工硬化に対する理解 り、それには工場の設備配置を見直す必要も生じる。また新しい成 も深まる。 形技術を的確に採用し、最大限に活用できる熟達した専門家が求め 熱変形の計算については、さらなる研究が必要であるが、今後も られる。 ダイムラー社と当社による共同研究が進められる予定である。 これはシミュレーションをざっと確認すれば終わる問題ではない。 しかし、シミュレーションを活用することで、加工硬化中の複雑な工 AutoForm-ThermoSolver 程が理解できるようになるため、企業のノウハウが蓄積されるだけ 本ソフトウェアを使うことで、自動車メーカーやサプライヤは、熱 でなく、競争力の強化にもつながる。また、これら一連の作業は、鋼 間プレス成形を伴う部品(側面の補強、A/Bピラー、フロントやリア・ 材による金型の作成からずっと遡る前段階で行なうため、コスト削 バンパの支持やそのほかの部品)の工程を開発および定義すること 減や開発計画の効率化などに寄与する。 が可能となる。また、直接および間接加工硬化のシミュレーション 実際上、これは非常に重要なことである。加工硬化およびテー や、テーラード・テンパリング工程のサポートを行なうことが可能と ラード・テンパリング工程は、自動車産業において重要性が増してい なる。そのため、事前定義された局部的な強度特性を持つプレス成 る。自動車メーカーは、高まり続ける衝突安全性や車体軽量化の要 形部品が、開発できるようになる。 求から、逃れることはできない。何よりも、時間は過ぎ去ってゆき、 シミュレーションでは、熱間プレス成形部品の実際の強度分 排出上限値を超過した場合の罰則は、2012 年時点において、すで 布を考慮するため、衝突解析の精度も向上する。AutoForm- に緊迫している。 ThermoSolverは、板厚分布や応力分布、そして、硬さやマルテンサ *出典:www.daimler.com イト分布などの最終部品特性をグラフィック表示する。これによりエ 本記事は『ツールエンジニア』2014年5月号(発行・大河出版)から転載しました。 AutoForm News No.13(2014年6月発行)からの抜粋