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NECAが目指す ものづくりの将来像 ~5ZERO マニュファクチャリング~

ホワイトペーパー

seiden特別号

NECA(日本電気制御機器工業会)が目指すものづくりの将来像
2030年、日本のものづくりが復活し、世界を再び牽引する状態に思いを巡らせたとき、NECAが出した答えは、「5ZERO マニュファクチャリング」
日本のものづくりの強さである匠の技の進化や「PDCA」を重ねた改善とともに、IoT、ビッグデータ、AI、協調ロボットなどの技術的なイノベーションの活用により、Q・C・D・Sと設備保全の領域で、5つの「ZERO」が実現された世界でした。
Q(品質)Zero defect:欠陥ゼロ
C(コスト)Zero production loss:生産ロスゼロ
D(納期)Zero late delivery:納期遅延ゼロ
S(安全・セキュリティ)Zero accident:事故ゼロ
MT(設備保全) Zero downtime:生産ライン停止ゼロ

本書は、「NECAが目指すものづくりの将来像〜5ZERO マニュファクチャリング〜」に加え、NECAの重点施策である3Sの進化として、安全・セキュリティー、環境、標準化の取組みの最新情報も含めた、NECA活動の濃縮版としてお届けさせていただきます。

seiden特別号の発行にあたり
(一社)日本電気制御機器工業会 会長 舩木俊之
•第一章 NECAが目指すものづくりの将来像~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて
 ものづくり・ことづくり委員会
•第二章 NECAにおける標準化の方向性
 技術委員会
•第三章 ものづくりのセキュリティ~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて
 制御システムセキュリティ研究会
•第四章 5ZERO マニュファクチャリングの環境側面
 環境委員会
•第五章 制御機器における模倣品対策活動
 模倣品対策研究会
•特別寄稿
 第四次産業革命、働き方改革推進を支援
 未来社会創生の道しるべ「未来安全構想」
 向殿政男、高岡弘幸(セーフティグローバル推進機構)
 荻原博之(日経BP社 日経BP総研 社会インフラ研究所)

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このカタログについて

ドキュメント名 NECAが目指す ものづくりの将来像 ~5ZERO マニュファクチャリング~
ドキュメント種別 ホワイトペーパー
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このカタログの内容

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seiden 特別号 NECAが目指す ものづくりの将来像 5ZERO マニュファクチャリング
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2 0 1 7 特別号 目 次 ページ 1 seiden特別号の発行にあたり  (一社)日本電気制御機器工業会 会長 舩木俊之 4 第一章 NECAが目指すものづくりの将来像 ~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて   ものづくり・ことづくり委員会 26 第二章 NECAにおける標準化の方向性   技術委員会 28 第三章 ものづくりのセキュリティ ~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて   制御システムセキュリティ研究会 32 第四章 5ZERO マニュファクチャリングの環境側面   環境委員会 35 第五章 制御機器における模倣品対策活動   模倣品対策研究会 38 特別寄稿 第四次産業革命、働き方改革推進を支援 未来社会創生の道しるべ「未来安全構想」  向殿政男、高岡弘幸(セーフティグローバル推進機構)  荻原博之(日経BP社 日経BP総研 社会インフラ研究所)
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seiden 特別号の発行にあたり 一般社団法人 日本電気制御機器工業会 会長 舩木 俊之  グローバル規模で社会環境の大きな変革が進む中、我が国では 2017年3月、CeBITにて我が国が目指す姿として新産業コンセプト 「Connected Industries」が打ち出されました。  一般社団法人日本電気制御機器工業会(NECA)では、これに先立 ち、2017年1月に、第4次産業革命への対応の提言「NECAが目指す ものづくりの将来像〜5ZERO マニュファクチャリング〜」を公開さ せていただきました。それから10ヵ月余が経過し、本年11月29日よ り開催される「SCF2017/計測展2017 TOKYO」を機に、「Connected Industries」に対応した次世代のものづくりの実現をめざした、その 後のNECAの取組みを皆様にお伝えすべく、この度の発行の運びと なりました。  今回の特別号は、「NECAが目指すものづくりの将来像〜5ZERO マニュファクチャリング〜」に加え、NECAの重点施策である3Sの進 化として、安全・セキュリティー、環境、標準化の取組みの最新情報 も含めた、NECA活動の濃縮版としてお届けさせていただきます。  是非、お手に取っていただきNECA活動のご理解を深めていただ ければ幸甚でございます。  今後とも当工業会活動のご理解、ご支援を賜ります様宜しくお願 い申し上げます。 seiden 2017-特別号 1
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ものづくりに「新しい価値」を 〜 電気制御機器から進化が始まる 〜 2 seiden 2017-特別号
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第4次産業革命の進展、IoTの進化、ロボット革命、AI、VR…… ものづくりを取巻く環境は、劇的な変化が起きています。 変革の時代にNECAはどこを目指すのか、 何に取り組むべきなのかを見つめ直したとき、 一つの答えが浮かび上がりました。 それは「 日本のものづくり復活」 その実現に向けて、「ものづくりの将来像」を掲げ、 従来から取組んできた「3S」を更に進化させて 取組んでまいります。 seiden 2017-特別号 3
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第 一 章 NECAが目指すものづくりの将来像 ~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて ものづくり・ことづくり委員会 Part1 第4次産業革命検討WGでの成果  NECAでは、2015年5月に、第4次産業革命検討WG(現:ものづくり・ことづくり委員会)を発足させて、IoT (Internet of Things;モノのインターネット)、ビッグデータ、人工知能(AI)などの新しい先端技術を背景とするメガ トレンドである第4次産業革命が、NECAとその会員企業に及ぼす影響と対応を検討してきた。  2017年1月に、それまでの活動の成果を「第4次産業革命検討WG成果報告書 NECAが目指すものづくりの将 来像」にまとめたので、Part1では、その活動内容とともにご紹介する。 NECAのポジションを踏まえ、政府関連組織、他工業会、 1. 第4次産業革命検討WGの活動内容 団体、企業等の活動に積極的に参画しながら各種情報 の収集、共有化、発信や提言の取りまとめを行っていくこ  2015年5月にNECA企画委員会の傘下に第4次産業 ととした。 革命検討WGを設置し、企画、業務、技術、広報、環境 の各委員会と制御システムセキュリティ研究会より委員を (1)情報の収集・共有化 選出し、当初5社10名(オブザーバ、事務局を含む)で、  第1回会合では(株)ICS研究所 村上社長よりIoT化 第1回会合を開催し、活動をスタートさせた。 にともなう制御システムセキュリティの課題や方向性につ いてご講演いただいた。  また第4次産業革命に関する下記の組織、活動に参画 し、その情報の収集を行い、その結果を随時、WG会合や 掲示板などに公開、掲出してその共有化を図っている。 〔 本WGの参画活動、組織〕 ・ロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)  ・IoTによる製造ビジネス変革WG  ・ロボットイノベーションWG ・IEC SG8国内委員会/IEC SEG7国内委員会 ・IEC TC65 SG8戦略検討Gr/TC65 SG104戦略  検討Gr ・JEMAスマートマニュファクチャリング特別委員会 図 1 全てがつながる IoT (Internet of Things)  2015年と2016年のNECAフォーラムでは、当時まで  まず、本WG活動の方向性を決定するために、NECA のWG活動の成果を発表した。 会員会社に本WGの活動内容として期待することをアン ケート調査を実施したところ、 (2)対外的な情報発信 ①技術・市場動向情報の収集と共有  システムコントロールフェア(SCF)2015では、第4次産 ②セミナー、展示会などによる対外的な情報発信 業革命のインパクトとNECAの取組みをパネル展示すると ③標準化やビジネスモデル構築に向けた活動 ともに、JEMAスマートマニュファクチャリング特別委員会と に対するニーズが高いことが判明した。 の共催セミナーの「製造業の将来像検討の中間報告」の  また、活動を進めるうえでは、産業・情報ネットワーク 中で、本WG委員2名が出席し、2030年の製造業に影 階層の最下層であるフィールド層のエッジデバイスを扱う 響するトレンドやその抽出方法などについて、JEMA委員と 4 seiden 2017-特別号
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第 一 章 NECAが目指すものづくりの将来像 ~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて パネルディスカッションを実施した(2015年12月)。  またCEATEC JAPAN2016では、SCF2017/計測 展2017 TOKYOの事前セミナーとしてRRI、 JEMA、 JEMIMAとの共催で「明日のMONOZUKURI」と題して、 各団体の活動状況の報告やものづくりの将来像に関する 意見交換を行った(2016年10月)。  さらに、後述する本WGの成果報告書により、NECAの 考えるものづくりの将来像、3S活動の進化、制御機器の 将来像について検討結果を開示している。 図 2 第 4 次産業革命検討 WG 活動体制 (3)標準化やビジネスモデル構築に向けた活動  日本では、IoTによる製造業の変革やスマートマニュファ クチャリングの標準化に向けて、IEC SEG7(旧SG8)国 内委員会やTC65 SG104戦略検討グループ(旧TC65 SG8戦略検討グループ)が、IECの国際上層委員会の方 針のもとに、各種検討作業を進めている。  また、RRIの製造ビジネス変革WGは、標準化活動の基 盤となるビジネスモデルの検討を行う一方、インダストリア ル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)も、ゆるやかな 標準化のためのレファレンスモデルの開発やIoTを活用し たプラットフォームつくりに取り組んでいる。 図 3 第 4 次産業革命検討 WG 成果報告書 表紙  本WGは、上記のIEC関連国内委員会やRRIに参画し、 第4次産業革命に関する国際標準化の動向をフォローし ている。  また、JEMAスマートマニュファクチャリング特別委員会 が2016年5月に発行した「製造業2030」において、トレ ンド分析に関する原稿作成に参画する一方、2016年 度は「製造業2030」で提言している将来的な製造業の デジタルプラットフォームであるFlexible Business and Manufacturing(FBM)の具体的な例として、制御盤のモ ジュール化によるビジネスの合理化について、同委員会、 および日本配電制御システム工業会(JSIA)と共同でそ の可能性を検討している(図2)。 図 4 第 4 次産業革命検討 WG 成果報告書 論旨 2.成果報告書「NECAの目指すものづ くりの将来像」について ■外部環境の分析 (1)概要 1.項では、第4次産業革命に関して、NECAの「日  本WGのおおよそ1年半の活動の成果報告書として、 本電気制御機器工業会の将来ビジョン2011-2020」 「NECAの目指すものづくりの将来像」を2017年1月に が発表された2011年にスタートしたドイツのIndustrie 発行した(図3、図4)。 4.0やアメリカのIndustrial Internetなどの海外のイニシ *NECAウェブサイト「NECA情報」2017/01/20ニュー アティブ運動やこれに呼応した国内のRRIやIVIなどの スリリース参照 動向を俯瞰した。また、第4次産業革命の進展にともな seiden 2017-特別号 5
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第 一 章 NECAが目指すものづくりの将来像 ~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて う、ものづくりの変化の概要を取り上げた。  最後に、NECAの主要3製品について、IoTのコン  さらに、2.項では、これらのメガトレンド以外の外部環 セプトにおいて、すべてのものとつながるとされるセン 境である経済・社会、技術、環境問題に関する動向分 サやシームレスなネットワークへの接続が予想される 析を行い、特に課題先進国としてのわが国が直面する PLCやPDの2030年までの将来像を描出した。 諸問題とともに成長基盤としてのICTやAIなどの先端 技術の進化に触れることにより、3.項以降の将来像に (2)5ZERO マニュファクチャリングについて 関する論考の前提条件を提示した。  3.項で扱った「5ZERO マニュファクチャリング」は、日 本のものづくりの特質とも言うべきQCDS活動により、 ■ものづくりの将来像 制御機器を活用したものづくりが、4M(人 Man・機械  3.項では、まず、第4次産業革命の波及により、 Machine・材料 Material・方法 Method)とともにIoT、ビッ NECAの会員企業である制御機器メーカの利益の源 グデータ、AIなどの技術革新を背景として、QCDSの各領 泉が、もの(ハード)からサービス(コト)に移行することに 域において、将来的にどのような姿に進化していくかという より、そのビジネスモデルに従来の垂直統合型からエコ ことを2030年までのロードマップの形で示したものである。 システムを活用したオープン連携型への変化が必要に  具体的には、制御機器を活用したものづくりが、QCDS なってくることを提示した。 改善活動と設備保全の領域で、2030年までにどのように  さらに、本WGでは制御システム設計の対象としての 進化していくかをレベル1からレベル4に分類のうえ、それぞ ものづくりではなく、生産実務の改善の対象としてのも れを定義した。 のづくりという視点にもとづき、新たな技術トレンドと日  レベル1:手動、一部自動化 本のものづくりのこだわりが集約した匠の技のデジタル レベル2:一部機械・自動化、一部協調 化を背景として、QCDS(品質・コスト・納期・安全/セキュ レベル3:機械・自動化、協調 リティ)と設備保全がどのように進化していくのかについ レベル4:機械+AI、自律 て検討を行い、このようなIoT対応した制御機器の活 用とPDCA活動によるものづくりの進化を「5ZERO マ  この分類に基づき各領域のレベル4の段階において共 ニュファクチャリング」と呼称することとした。 通に使用される5つのゼロで始まる究極のものづくりの姿 が5ZERO マニュファクチャリングである。 ■3S活動の進化  Q(品質):Zero defec(t 欠陥ゼロ)  4.項では、NECAの重点施策である3Sの最近の活  C(コスト):Zero production los(s 生産ロスゼロ)  動内容に触れた後に、それが第4次産業革命下で、ど  D(納期):Zero late deliver(y 納期遅延ゼロ)  のような影響を受ける可能性があるのかについて検討  S(安全・セキュリティ):Zero acciden(t 事故ゼロ)  を行った。 設備保全:Zero downtime(生産ライン停止ゼロ)  その想定を踏まえ、NECAの3S活動のあるべき方向 性と今後のアクションの概要について、言及した(図  このロードマップ作成に際しては、本WGの主力委員が、 5)。 ものづくりの現場を預かる実務責任者で構成されていたこ とから、あえてアーキテクチャーモデルの構築を目指すシス テムアプローチは採らず、トヨタ生産方式に代表される3 現主義(現場・現物・現実)によりカイゼンを目指していくと いうプロセスアプローチを採用した。  また、IoTによる生産効率化の側面だけでなく、日本のも のづくりの肝ともいうべき匠の技の持つ教育的側面につ いても考察を進めた。その結果、匠の技のデジタルアーカ イブ化とAI活用による自動化と自律化が達成された後にも 自律システムと人との協調によるものづくりの永続的発展 図 5 3S 活動の進化 (スパイラルアップ)があると想定した。 6 seiden 2017-特別号
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第 一 章 NECAが目指すものづくりの将来像 ~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて  さらに、NECAの会員企業の多くが、上位のシステム の考え方を日本のものづくりの象徴であるトヨタ生産システ 製品を保有せず、組立産業分野のデバイス/エッジ層の ムと比較した場合、両者とも効率性とともに品質を重視す フィールド単品機器を扱っていることを踏まえ、この領域か る点は共通である一方、 5ZERO マニュファクチャリング ら将来像を俯瞰するボトムアップの視点での考察を徹底し は、さらに第4次産業革命の技術革新の要素を付加した た(図6)。 ものであると考えている(表1)。  このようにして生まれた5ZERO マニュファクチャリング 図 6 5ZERO マニュファクチャリングに関するロードマップ 表 1 日本のものづくりの強みを生かす 5ZERO マニュファクチャリング seiden 2017-特別号 7
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第 一 章 NECAが目指すものづくりの将来像 ~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて Part2 品質と生産性の飛躍的改善について  Part2では、5ZERO マニュファクチャリングのうち、「ものづくりの効率化:Zero Production Loss」と「ものづくり 品質の向上:Zero Defect」の詳細内容を紹介するとともに、同WGで、ものづくりの将来像の取りまとめに関して中 心的な役割を果たされた水野副委員長(オムロン)へのインタビューとオムロン草津工場における先端的なものづくり 革新への取組み状況を紹介する。 1「. NECAが目指すものづくりの将来 量生産のラインを自動化すると投資回収が困難である場 像」で描かれた、ものづくりの効率化 合が多いようである。 とものづくり品質の向上について  ただし、今後はマスカスタマイゼーションを実現するため には多品種少量生産でも効率化を追求する必要がある。 (1)ものづくりの効率化:Zero Production Loss その場合、設備配置が機能的にモジュール化し、物理的 の実現 に連続した形とならない生産ラインが導入されることによ  これまで、多くの製造業が国内の生産ラインを縮小し、 り、ワークピース搬送装置が設備(工程)間を物理的につ 海外に移転している。 なぐようになり、搬送中や待ち状態のワークピース数が最  この目的は、①コスト低減 ②ヒト、モノ、カネの移動に 少となるように計画的に生産されて、生産性が向上するこ ともなうロスの低減 ③海外現地化による企業の社会的 とが可能となる。 責任の実践などが挙げられる。この動向は近年加速して おり、日本の製造業(海外進出企業ベース)の海外生産 ②ロボット活用による生産性の向上 比率は、 2008年度の30.4%から2014年度に38.2% 生産ラインではロボットが普及し、単純な組立作業から まで増加し(経済産業省:「海外事業活動基本調査」)、 複雑な熟練を必要とする作業などにも全般に使われるよう NECA統計でも、海外生産比率は、2012年度の28.5% になる。汎用性、転用性のあるロボットは同一ラインで固 から2015年度は35.9%に上昇している。 定して使うのではなく、工程の負荷状況に応じて、複数の  このような生産拠点の海外への移転は、所謂「地産地 ラインを担当するようになり、プログラム及びロボット先端 消」目的での生産拠点の最適化が実現されていれば問題 部のユニットを交換することにより様々な品種の生産を担 は少ないといえるが、単純に現状でのコスト低減だけを目 当することができるようになる。  的として海外移転が行われる場合には、国内労働環境の  また、ロボット自体に学習機能が備わった人工知能が 空洞化を招くとともに、現地の物価・人件費アップによるコ 搭載されて、ロボット相互間や人間との間でのコミュニ スト高騰や為替悪化にともなう損益悪化のリスクを抱えるこ ケーションが図られて、最適な生産性を実現する自律型 とになる。 ロボットが導入されることにより、生産性の向上と品質の  したがって、生産拠点の最適化をはかるためには、これ 安定、生産場所移転の容易化などロボット導入効果が らのリスクを回避するとともに、どこで作ってもコスト競争 期待できる。 力を有するような生産拠点の確立を目指すべきであると  今後は、24時間稼働可能なロボットの普及とともに、止 考えられる。 まらない生産ラインの実現のための協調安全に関する技 術開発を継続して行う必要がある。  そのためには、①モジュール生産ライン ②ロボット活 用 ③エコシステムを活用したつながる工場などにより生 ③つながる工場による生産性の向上 産性を飛躍的に向上させる必要がある。 高効率化の手段として水平分業により同一種類の生 産品をエコシステムとして複数の企業から集め、専門性を ①モジュール生産ラインによる生産性向上 高めることが考えられる。 これまでは、少品種多量生産ラインに比べ、多品種少  ICTを利用したシステムが発達した社会では、企業間で 8 seiden 2017-特別号
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第 一 章 NECAが目指すものづくりの将来像 ~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて の連携が密になりあたかも同一企業内で製作しているよう らあるが、サプライチェーンの複雑化により影響原因の特 なものづくりを構築することが出来る。 定の難易度があがっているうえに、市場・顧客に対するア  企業間でのデータ共有には、セキュリティはもちろん、 クションのスピードアップが求められ、より多くのデータを即 データの所有権問題など解決すべき課題は山積している 時に分析・トレースしなければならない。 が、顧客にとっても最も望ましい生産革新を実現するため には、ここまで進化したつながる工場の姿が求められる。  もうひとつは、製造業にとって最も重要な「永続的な品 共有する情報は品質情報、工程進捗情報、生産品の特 質改善活動」である。製造プロセスは様々なプロセスデー 性データやスループットなどに及ぶ。 タのモニタリングと、その状況に応じたコントロールにより、  このように先端的なスマート工場では、工程が独立した 適切な品質を維持改善している。しかしながら、製品や製 機能として存在し、必要なときに必要な工程と結合される 造プロセスの高度化が進む中で、センサの検出精度や 究極のフレキシブル生産方式が実現する。 データ解析能力の高度化が求められている。  2030年の製造業は原材料、部品、中間加工品、完  特に、新分野や新商品の立上げ時における新たな製造 成品まで、工場内の工程相互間とともに企業相互間(サ プロセスでの歩留まりは60〜70%という低率になることも プライヤ、メーカ、販売業者)がネットワークでつながり、リ あり、製品の信頼性や原価に大きく影響するだけでなく、 アルタイムで生産状況、品質状況、稼働状況などを把握 新製品の生産能力の不足による機会損失にもつながり、 できるようになる。 事業の成否を左右する。  瞬時に高歩留まりを確保し、狙いどおりの生産能力を  上記の生産性革新により、生産効率は格段に向上し、 発揮できる、「Zero Defec(t 欠陥ゼロ)の止まらない製造 Zero Production Los(s 生産ロス・ゼロ)の究極の生産ラ ライン」が企業の競争力となっていく。 インが実現される可能性が考えられる。  次に、主に3つの技術シーズをもと に、ものづくり品質革新への活用モデ ルと解決すべき課題を考えてみる。 ①IoT ”モノのインターネット”化による品質 革新への活用は、なんと言っても今ま で誰にも取れなかったデータが得られ ることである。  一般にものづくりの品質は先述した 4つのM(Man、Machine、Material、 Method)をセンシング&コントロールす ることで確保できる。しかしながら、従 図 1 つながる工場のイメージ(出所:Plattform Industrie4.0) 来の技術では機械の情報でさえもリア ルタイムに常時得られるのは一部分で (2)ものづくり品質の向上:Zero Defectの実現 あり、ましてや人の情報などはほとんどデジタル化されてい  品質の側面でものづくりの将来像を考えるならば、大き ない。 くは2つのニーズの高まりに注目する必要がある。  IoT化により、4Mデータの種類、量、分解能が格段に あがることは、製造業が長年磨いてきた統計的品質管理  ひとつは、食品や自動車に代表される安心ニーズに応 によって導き出される、品質不良と4M変動の因果関係が えるトレーサビリティであり、近年のリコールや異物混入事 より明らかになり、検査による流出防止でなく、製造プロセ 故などの事例は、企業の存続にまで影響を及ぼすものが スのコントロールによって良品しか作らない製造ラインを構 ある。製造業にとってトレーサビリティという概念は古くか 築できるようになる。 seiden 2017-特別号 9
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第 一 章 NECAが目指すものづくりの将来像 ~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて  このようなデータ取得のためには、新たに大量のセンシ うな新たな製造プロセスを早期に安定化させる特徴量や ングデバイスが必要となるため、デバイスの超小型化・低 最適パラメーターを見つけ出すことが出来るようになるであ コスト化や無線化などの必要性が高まる。 ろう。  トリリオンセンサ時代と称される将来像では、製造現場  2014年ごろから、日本の製造業でもビッグデータ活用 以外でのセンサ数が圧倒的に増加するとも予想されてお の事例が見られ始めたが、「データは集め始めているが具 り、従来のFA用途以外のセンサが製造現場で使われる 体的な活用が進んでいない」との声を聞くことがある。いく 可能性も考えられる。しかしながら、ものづくり品質革新に つかの要因が考えられるが、ひとつには自社の製造現場 使えるデータには量だけでなく確からしさが必要となる。 だけで扱うには技術や経験が不十分であると推定される。  例えば、異なるデバイスや装置間でのデータ同期性能  今後は、ユーザとしての製造現場を持つNECA会員 のバラツキがあれば、因果関係の分析を誤るリスクを抱え 企業のような制御機器や装置メーカと、ICTやAIのような る。更に、高速大量データの取得でのデータ欠損や、セ 技術に長けた企業との協業が成功の鍵を握ってくるので ンサからコントローラへの伝送過程での処理能力なども問 ある。 題になるであろう。  いずれにしても、ものづくり現場で活用できる“正しい” ③クラウド データが得られるかどうかは、製造システムの入り口に位 生産拠点のグローバル化の動きは、景気動向や市場 置するセンサにかかっているために、センサはIoT時代の の変化にあわせ、最適地生産を求める動きが続くであろう。 製造現場において極めて重要なデバイスである。  どこで作っても同一品質を確保するために、これまでも ②ビッグデータ 製造現場では4Mの標準化を進め、国内工場での経験を 前述のIoT化により、大量の製造ビッグデータが得られ 海外工場に展開してきた。 ることで、ベテラン技術者でも原因究明が難しいような散  インフラとしては主には社内イントラネットが使われてき 発型や慢性型の不良原因の解析が期待される。 たが、今後はクラウドを活用することで、導入スピードや  従来ものづくり現場での品質解析は、QC7つ道具や セキュリティ対応はもちろん、IoTプラットフォームやアプリ FTAなどの分析的なQC手法を中心に行われているが、 ケーションを活用した品質分析の高度化なども期待ができ 桁違いのデータ量とこれまで取れなかった多様なデータに る。特に中小企業など自社でのインフラ投資負担が難し よって分析手法も進化する。 い環境であっても、IoTやビッグデータの活用促進が進む  例えば、ディープラーニングのように自動的に特徴を抽 であろう。 出できるようになると、ベテラン技術者の知識や経験も及  更に、サプライチェーンでつながる企業間の品質データ ばなかった新たな因果関係が見えてきたり、二次電池のよ が連携できるようになれば、品質革新とトレーサビリティの 観点で飛躍的な発展が期待できる。例え ば、スイッチのようなメカニカルコンポーネ ンツの製造であれば、材料メーカでの品 質データの変動を組立メーカ側の製造パ ラメーターで調整するような企業をまたがる すり合わせの可能性も広がる。  特にトレーサビリティの観点では、サプラ イチェーンの複雑化によるサイレントチェン ジやCSRリスクが高まる中で、非常に重 要な意味を持つようになる。 図 2 IoT、ビッグデータ活用による品質向上 10 seiden 2017-特別号
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第 一 章 NECAが目指すものづくりの将来像 ~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて る。作るヒトの変化も、中国工場での人件費高騰や、日 ~先端的なものづくり革新への取り組み例~ 本工場でのベテランからの技能伝承などの課題を抱えて 「オムロン(株)草津工場におけるIEとIoTの融 いる。 合による生産改善」  こうした課題に対して、制御機器メーカーという立場と、 製造現場という二つの立場を活かして、自社の制御機器 を使い自社工場を改善することに取り組んでいる。 1.オムロン(株)草津工場のご紹介 オムロン(株)は、1933年の創業から84年となる。 4.生産性改善のポリシー 健康機器のイメージもあるかと思うが、制御機器の事業 が売上の40%を占める主力事業である。  冒頭でも紹介したが、IoTはツールであり、どのように実  草津工場は、主にPLCなどのコントローラーを生産す 用するかが大切と捉えている。 る主力工場で、滋賀県の草津市にある。最近では、IoT  草津工場では「IE+LCIA(Low Cost Intelligent Auto- 化が進んだ工場と紹介頂くことも多いが、1980年代に mation」という生産性改善のポリシーを持っている。これ 始まった生産革新プログラムであるONPS(Omron New は5Sや改善風土といった強い組織基盤のうえに、科学的 Production System)の考え方を基盤とした改善活動を なムダとりアプローチであるIEを徹底的に行い、付加価値 大切にしており、IE(Industrial Engineering)とIoTを融合 部分だけを賢くてローコストにオートメーション化するという させた活動を目指している。 コンセプトである。IoTをオートメーションと言うかの議論はあ るが、組織やIEという基盤なしに、テクノロジーを乗せたと ころで、表面的な見栄えのするラインにはなるであろうが、 2.ものづくりを取り巻く課題 本当の工場のP/LやB/Sにまで効くかは疑問である。  ものづくりを取り巻く環境を、ニーズとシーズの両面から 考えれば、それぞれ3点に集約されると考える。 5.現場改善の取り組み (1)ニーズの変化  ①作るモノの変化 ②作る場所の変化 ③作るヒトの (1)IE改善活動の拡大 変化  IE改善については、取組みが多岐にわたりとても全部 (2)シーズの変化 はご紹介できないため、人材育成とMES(Manufacturing ①ICTの飛躍的向上 ②ロボティクス技術の進化 Execution System)の活用を紹介する。 ③AI技術の進化 特に、シーズについては、ここ数年で一気に技術革新 が進み、製造現場での活用が現実に始まり、ものづくりの 未来を一変してしまうような期待も高まっている。 3.草津工場の経営環境  弊社草津工場も、前述のような変化の真っ只中にいる。 例えば、作るモノの変化では、高性能コントローラーの部 品点数は従来機種より大幅に増加し、より高度な製造プ 図 3 幅広い商品ラインナップを ロセスが必要である。    支える高効率生産の追求  作る場所の変化でも、日本だけでなく中国やインドネシ ア、欧州でも生産しており、サプライチェーンも広がってい seiden 2017-特別号 11
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第 一 章 NECAが目指すものづくりの将来像 ~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて ①改善人材の育成  図5がタイムラインと呼んでいる見える化のチャートであ 昔は「IEは徒弟制でないと習得できない」と言われたくら る。 い、習得するには実践経験に基づいた伝承が欠かせな  縦軸が時間の流れ、横軸が製造工程の流れを表し、線 い。全社的制度としてIE技術認定制度を構築し、座学だ 一本一本が製品がラインを流れた様子を表している。空 けでなく実際の製造ラインで数ヶ月以上も改善を行い、知 白部分は機械が仕事をしていない無駄であり、線の傾き 識と実践力をもった人材を育成している。 が急な部分はラインを抜けるのに時間がかかっていたこと  更に、製造現場の請負会社の方が認定にチャレンジす を表す。更にバブルチャートは設備が発した警報情報を表 るケースも増え、現場に根付いた改善人材が多数誕生し す。機械は動きながらもいろんなワーニングを出している。 ている。 部品の吸着ミスなどは、機械が自分でリトライしているため、 機械自体は止まらないが、実際にはロスが起きているのが ②MES活用による多品種少量生産の実現 分かる。例えば、吸着ノズルのNo.15のリトライが増えたか 超多品種少量生産では、人のロスやミスを最小化する ら、交換時期だとわかるといった具合である。 ためのサポートシステムが欠かせない。  このような見える化のおかげで今までにない改善の着眼  特に毎日何百回と行われる段取り替え作業には、部品 が得られ、約1年間で30%もの生産性改善を実現できた。 ピッキングから装置への装填指示、バーコードによる間違 何年も改善を続けてきたラインでの30%改善は非常に大 い防止などの機能を充実したMESを導入している。製品 きな成果で我 も々驚いた。 の標準・基準工数と実績工数の管理も極めて重要であ る。何千品種もの製品に対して、オーダー・使用装置・担 ②品質革新への取組み 当作業者などの属性データとセットで管理している。 現在は品質革新に取り組んでいる。  このような改善を継続していたが、更なる改善にはもっ 実装工程は一般にシングルppm(Point Per Million)、 と細かいメッシュでのデータ収集と活用が必要ではないか つまり100万分の1〜9の欠点率が一流と言われている。 と考えていたのが2013年のことである。まだIoTという言 更なる製造データ活用により、これをダブルppb(Point 葉もない中、手探りで始めた。 Per Billion)つまり10億分の99以下を目指している。こ れはお客様への製造不良をゼロにする「Zero Defect」を (2)IoT活用の現場実証 本当に実現できる水準である。高い目標だが更なるデータ ①PCB実装工程の生産性改善 活用と要素技術深化の両面で取り組んでいる。 最初に着手したのが、PCB(Printed Circuit Board)  具体的には、プロセス系のデータ量を7倍以上に拡大、 実装工程の生産性向上である。図4のように、実装工程 検査工程での検査・計測データも紐付けし、4Mの変化点 の装置機器から様々なデータを収集し、データベースに一 情報を掛け合わせる。そこから相関分析を行いベテランで 元的に管理をしている。そのデータを分析というよりも見え も気づきにくいような因果関係を導出する。 る化のレベルで活用している。 図 4 プリント基板の裏面実装(SMT)工程 図 5 見える化チャート 12 seiden 2017-特別号
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第 一 章 NECAが目指すものづくりの将来像 ~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて  これからも「IoTにできることはIoTにまかせ、改善士はよ 6.おわりに り創造的な改善を楽しみ、働けば働くほど“楽”になる現場」 を目指して励んでいく。  弊社創業者の立石一真の言葉に「機械にできることは  駆け足での紹介となったが、何かのご参考にしていただ 機械にまかせ、人間はより創造的な分野での活動を楽し ければ幸いである。 むべきである」とある。 イ ン タ ビ ュ ー 今回の「オムロン(株)草津工場」での取り組みを紹介してくださった水野副委員長へ 日本のものづくり現場から 日本のものづくりの将来やものづくりへの想いを聞かせて頂きました。 Q.NECA「 第4次産業革命WG」参加しての感想は? 「FUN to“ ものづくり”」 「第4次産業革命」はとても広範囲な概念ですが、制御機  なによりものづくりの楽しさを感じるこ 器メーカーの立ち位置からの具体化に、少しでもお役にたて とではないでしょうか? れば、ものづくり委員としては嬉しいです。  自分の手で作り出す楽しさ、コラボレー  個社では限界があります。NECA内外との連携(コラボレー ションで指数関数的にできることが広が ション)が大切と感じます。 る実感。このFUNを大切にしたいです。 Q「. 5ZERO マニュファクチャリング」実現に向けての想 Q.2030年の草津工場の姿とは?  いを教えてください。 若手が10年後の工場像をイラストにしてくれました。ロボッ  生産とは「地球上の資源とエネルギーと資源をつかって、 トやAIに自然エネルギーや完全在宅勤務。CPSも極まれりで 生活に有益なものをつくりだすこと」です。 した。そんな若手が伸び伸び腕を振るっている姿を思い浮か  ZEROにこだわる革新は、ものづくりによって生み出され べます。人と機械は協調から融和の時代になります。機械は る豊かさの持続可能性を確かなものにしていきます。そして もっと人のためにできることがあるはずです。人と機械が互い ZEROにこだわる革新は、「乾いた雑巾を絞る」と言った言 に成長をサポートしあう、そんな関係になっていて欲しいです。 葉に込められた、日本のものづくりの先人から受け継がれた DNAでもあります。 Q.未来のものづくりで実現したいことは?  「匠」に代表される“人”を中心におき、知恵とテクノロジーの まったくの夢なのですが、働けば働くほど健康になる工場を 両輪で実現するのが「5ZERO マニュファクチャリング」です。 つくりたいです。 テクノロジーだけでは足りないのです。  また世界中の次世代の若者が、ものづくりの厳しさと喜び を感じられる役に立ちたいです。 Q.ものづくり復活に必要なこととは何でしょうか? 「自信とコラボレーション」 Q「. ものづくり」 これだけは言っておきたいこと!!  個社の固有技術は本当に高いものがあり自信を持つべき  ものづくりにとって、これからの10年は世紀の大チャンスで です。ですが自社だけで創れる顧客価値には限度があります、 す。こんなに面白い時代にものづくりに携われる幸せを多くの 強みの掛け算になる社外コラボレーションがキーと考えます。 人と分かち合えたら最高です。 seiden 2017-特別号 13
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第 一 章 NECAが目指すものづくりの将来像 ~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて Part3 最適納期と設備保全について  Part3では、5ZERO マニュファクチャリングにおける「最適納期とマスカスタマイゼーション:Zero Late Delivery」 と「設備保全の進化:Zero Downtime」を紹介するとともに、小川委員(富士電機機器制御)が同社大田原工場で のものづくりの変革に対する取組み例を紹介する。 1「. NECAが目指すものづくりの将来像」で描 やり取りするケースはごく当たり前だが、今後、さらに情報 かれた、最適納期とマスカスタマイゼーショ 処理技術の進展にともないビッグデータの活用が広がる ンの実現、および設備保全の進化について と、いわゆる「 つながる工場」の実現に向けて受発注にお ける電子化・デジタル化が加速するなかで、データフォーマッ (1)最適納期とマスカスタマイゼーションの実現: ト等の標準化が進む可能性がある。   Zero Late Delivery  その過程で、受注側となる多くの企業においては、生 ①つながる工場と工程の見える化による最適納期の実現 産管理も含めた業務手順の見直しや、システム導入・更  最適納期(欲しいモノを欲しい時に欲しい量だけ)を実 新等の対応が必要になると考えられる。さらに、一つの工 現するには、顧客要求に対する素早いレスポンスと短納 程が終わって次の工程に移るのではなく、工程を同時並 期化が製造業へ求められる。 行で進めるとともに、サプライチェーン全体において、モノ  現在、受発注に係る業務を電子データやe-メール等で がどの工程をいつ通過し、いつ完成するのかという状況 把握や進捗確認に関するデータをリアルタ イムで情報共有ができる「見える化」の実現 が求められる。  このことにより、ネック工程での停滞やリー ドタイムが一元的に把握できることとなるが、 さらにAIの活用などにより工程進捗の最適 化が可能となると、工程間の調整や問い合 わせ等による確認作業が不要となり、リード タイムの削減が達成できる。  ひととおりの短納期では付加価値になり 得ないために、単なる短納期ではなく「超」を 付けた「超短納期」というサービスを提供する 時代へと突入していくことが想定される。 ②生産ラインのモジュール化によるマスカス  タマイゼーションの実現  ものづくりの効率化を実現するために、製 品部材がモジュール化されていく方向性を Part2で紹介したが、このモジュール化はマ スカスタマイゼーションを実現する上でも重 要である。  つまり、マスカスタマイゼーションのために 図 1 カスタマイゼーションと製品モジュール化の関係 は、モジュール化された部材の組み合わせの 変更により顧客ニーズに対応できるようにな 14 seiden 2017-特別号
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第 一 章 NECAが目指すものづくりの将来像 ~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて るが、生産ラインもこのモジュールに対応した構成とする 「超短納期」で提供できるZero Late Deliver(y 納期遅 必要があり、従来のような専用ラインではなく、分散した設 れゼロ)の時代への移行が想定される。 備をシステムがつなぎ合わせることで一連の工程を確立す ることになる。 (2)設備保全の進化  この場合、設備(工程)間は、物理的につなぐようになり、 ①現状と環境変化 搬送中や待ち状態のワーク数が最少となるように計画的  設備保全に不備があると、突発的なライン停止や品 に生産される。 質・環境・安全トラブルが発生し大きな損害を被る。  それとともに、マスカスタマイゼーションを実現するには、  設備保全には,以下3種類が挙げられる。 生産計画とスケジューリング能力を強化して、短納期化を (ⅰ)故障時に都度復旧作業を行う「事後保全」 可能にする必要があり、また、モジュール化に適した製品 (ⅱ)故障発生リスクを低減するために給油や消耗部品の 設計も必須となる。 交換を定期的に実施する「予防保全」  さらに、モジュール部のみを専門的に生産する企業の供 (ⅲ)設備から発する異常状態を捉え故障を予知する「予知 給により、異なるメーカが同一のモジュールを使用する可 保全」 能性もあり、キーパーツの生産における効率化は競争が激  理想は「予知保全」の完全実施による「事後保全」「予 しくなるであろう。 防保全」の不要化ですが、現実は「事後保全」をゼロにす  さらに3Dプリンタの活用などにより、限界費用ゼロで、 るのは困難であり、現場のオペレータが(ⅰ)〜(ⅲ)を組合せ 顧客からの少量ではあるが多様な要求に対して迅速に対 て突発的なライン停止のリスクを低減する活動をしている 応できるものづくりの潮流として、究極的には1個流しの生 のが実態である。 産ラインが実現する可能性が出てくる。  しかしながら、下記のような革新への取組みにより、今  製造業がインターネットや情報処理・製造技術の向上に 後、設備保全におけZero Downtime(ダウンタイム・ゼロ) より、顧客の好みの仕様へ容易にカスタマイズした商品を を実現できる可能性がある。 図 2 予防保全の将来像イメージ seiden 2017-特別号 15
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第 一 章 NECAが目指すものづくりの将来像 ~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて ②革新の方向性と課題  データ収集・解析で得られた情報をどう活用するかは、 (ⅰ)センシング技術および診断技術向上による異常検知 人に依存せざるを得ないのが実態だが、一部については 精度向上 AI技術と組み合わせ自律的にフィードバックする事により、  設備保全にとって最も重要なのが設備の異常をどう 人を介在せずに安定した稼働が可能となる。 やって検知するかという点である。  より高精度に設備の状況を捉えるためには、設備がど (ⅴ)標準化 ういう状況にあるのかを高精度に捉えるセンシング技術と、  マスカスタマイゼーションが進むと全ての設備やコンポー どのようなデータや分析技術が必要となるか、という点を明 ネントが需要変動に合わせ柔軟にインストール可能となる。 らかにする必要があり、コンポーネント単位での診断技術 その際に設備保全に関するデータ収集や診断アルゴリズ の進化が必須である。 ムも自動的にインストールされ、過去履歴も含めた連続的 な履歴管理が可能となる。これにより設備の余寿命が明 (ⅱ)ネットワーク化による統合管理(遠隔操作)の実現 確になり設備の再利用が促進されるようになり、設備の稼  設備を構成する全ての要素部品について状況を把握す 働率が向上するのみでなく環境負荷低減にも大きく貢献 る事ができれば、そのデータをネットワークで連携し設備の することができるようになるだろう。 状況をリアルタイムで把握する事が可能となる。  完全自律保全と柔軟性の高い完全自動生産が実現す  国内外の工場をクラウドでつなぎ、製造ビッグデータをリ ると、工場運営に人がかかわる必要がなくなる。 アルタイムで分析できる環境が整うことで、遠隔での設備  最終ユーザが世界中にある時間課金の設備を組み合 診断・保全支援においても現地出張に劣らぬ成果が出せ わせて自ら生産を行う事が出来るようになり、「工場」という るようになり、全工場に展開するスピードと精度も格段に 概念そのものが無くなる時代が来るかもしれない。 向上する。バーチャルリアリティ技術との組み合わせで、あ たかもその場にいる様な感覚で遠隔設備診断ができるよう になるかもしれない。  また、ネットワークの範囲を企業の壁を越えて広げる事 により、各設備を熟知した高度な専門家が企業をまたが ~先端的なものづくり革新への取り組み例~ り世界中の設備のメンテナンスを遠隔で実施する事が可 「富士電機機器制御(株)大田原工場における 生産ラインにおけるリードタイム短縮と設備 能になる。 保全について」  個々の設備を世界トップレベルの専門家集団がリアル タイムでメンテナンスしてくれる生産ラインも実現可能にな るだろう。 1.富士電機機器制御(株)大田原工場の ご紹介 (ⅲ)シミュレーション技術と連携した予測技術  CPSにて構築した仮想の生産ライン上で、各種センサ  富士電機機器制御(株)は70年余にわたり受配電・開 から入手した設備状況をモニタリングしたデータを用いてシ 閉・制御機器コンポーネント分野の製品を世界の市場に ミュレーションを実行する事により、未来予測が可能とな 供給してきている。 る。これにより、精度の高い予防保全が可能となりムダな  歴史的にものづくりに強いこだわりを持った会社で、要 設備停止や過剰な補修品在庫を解消できるようになる。 求された品質・納期で安定してお客様のもとに製品を届け  全てのコンポーネントの故障予知が可能となるだけでな る事ができるように、経営者から現場の作業者まで日々改 く、例えばある構成部品の摩耗が来週末に○○mmに達 善や新しい技術開発を推進している。 し、これに投入予定の部品寸法情報を組み合わせると、  その中で大田原工場はブレーカーの生産を行っている ○月○日に出荷する製品の品質リスクが○○%悪化する、 弊社の主力工場の一つで以下の特徴がある。 などといった精度の高い予測が可能になるかもしれない。 (1)部品加工から組立までの一貫生産体制 (ⅳ)AI技術による自己診断、自己補修  本体組立だけでなく、モールド成形加工やプレス加工な 16 seiden 2017-特別号
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第 一 章 NECAが目指すものづくりの将来像 ~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて どの部品加工も行っており、安定した品質・納期で製品を 生産できる体制となっている。 (2)全自動生産ライン  小形ブレーカーについては、全自動生産ラインにて生産 を行っている。本体組立だけでなく部品加工ラインについ ても自動生産を行っており、部品加工、ライン間の部品搬 送も含め、人がほとんど介在しない全自動での生産工場と なっている。 大田原工場新生産棟 (3)幅広い生産技術  金属加工技術、プラスチック成型技術、接合技術、設 備技術(ハード、ソフト)などブレーカー製品を支える幅広い 2.最近の取り組み 技術を保有している。  より高いレベルの改善を目指す中で、技術者や作業者 の気づきを促す「情報の見える化」の要求が高まってきた。  一方、生産設備は様々な情報を保有しており、その情 報を整理する事で様々なムダやムラが見えてくることもわ かった。  そこで、自動ラインを中心に設備が発信している各種情 報を収集し見える化することを進めている。  ある自動ラインでは各設備からの情報を収集することに よりラインバランスの見える化ができるようになった。その 中でネックとなる設備について改善しようとしたが、取得 小形ブレーカー全自動生産ライン できる情報のみでは改善につながるデータが得られなかっ た。そこで設備の動きを常に監視するカメラを設置するこ 大田原工場が目指すものづくり とにより設備の問題が見え対策につなげる事ができた。  大田原工場は富士電機グループの中でもトップクラス の改善力を誇る工場で、現場発信での改善が日々行われ  現在、大田原工場にはリアルタイムで設備の状態を見 ている。 ることができるカメラが約20台設置されており迅速なトラブ  改善活動も多種多様で、サプライチェーン全域を全体 ル対応や効率向上に役立っている。 最適する活動から、幅広い技術力を活用した新しい技術  IoTへの取組は情報を取ってみないとどんな情報が有用 開発、ハード/ソフト双方の設備技術を活用した自動化な かもわからない。しかしながら、やみくもにデータ収集しても ど多岐にわたる視点からの改善を行っている。 役に立たない情報群になってしまう。  それらの改善活動の集大成として、2013年度に工場  大田原工場では「まず取れる情報を収集してみる」→ 内に分散していた工程を新しく建築した建屋に集約した。 「欲しい情報が何かを明確にし不足情報を収集するため 倉庫と組立ラインを直結して在庫情報と生産計画を連動 のセンサーを追加する」というステップを繰り返す事により することにより、後引き生産を実現して大幅なリードタイム 情報の質と改善レベルをスパイラルアップしていく取組を の短縮を実現している。 推進している。  スピーディーな事業環境変化へ対応すると共に、お客  また、得られた情報や各種KPI については海外工場も 様により多くの貢献ができるように、改善力や技術力を活 含めた工場内外でリアルタイムに見る事ができるようする 用しながら常に変化・進化する工場であり続ける事を大田 事により、より多くの気づきを生み出し改善の質・量を更に 原工場は目指している。 高めていくことを目指している。 seiden 2017-特別号 17
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第 一 章 NECAが目指すものづくりの将来像 ~5ZERO マニュファクチャリング実現に向けて 3.おわりに  工場の改善活動は「こうすればできる」という定形業務 はない。工場内のひとりひとりが自分たちの工場をより良 くしたいという強い思いを持ちながら、知恵を絞り、時には 失敗を繰り返しながら創造していかなければ本質的な改善 につながらない。  IoTは知恵を誘発するための大きな武器になっている が、それを生かす事ができるのは「人」だけである。私たち はこれらの「人」を大切にし各自が成長しながらより高い 成果を出せるように、今後も挑戦を続けていきたいと考え 各種情報の見える化 ている。  イ ン タ ビ ュ ー 今回の「富士電機機器制御(株)大田原工場」での取り組みを紹介してくださった小川 日本のものづくり現場から 委員へ日本のものづくりの将来やものづくりへの想いを聞かせて頂きました。 Q「. ものづくり・ことづくり委員会」に参加しての感 思っています。皆が自信を持ち思いをもって前向きにな   想は? れば、世界をリードできる日が近いうちに来ると信じてい  同業他社の皆様とものづくりについて一緒に議論す ます。 る機会はなかなかないので、とても良い刺激になってい ます。皆様、ものづくりに対して熱い思いを持つ方ばか Q.2030年の大田原工場の姿とは? りなので、私ももっと頑張らないという良い励みに繋がっ  世界一のブレーカー工場になっていると信じていま ています。 す。 Q「. 5ZERO マニュファクチャリング」実現に向け Q.未来のものづくりで実現したいことは?   ての想いを教えてください。  ものを作っている人が、楽しく誇りを持って仕事ができ  「5ZERO」の実現はものづくりに携わる全ての皆様 るような工場を実現できるようにしていきたいと思ってい にとって究極の目標だと思います。ただ現実の業務の ます。 中では「ZERO」というのは現実性がないと思ってしまい がちです。今回改めて究極を目指す目標を掲げる事が Q「. ものづくり」 これだけは言っておきたいこと!! できたのは私自身にとっても良かったと思っています。少  究極のものづくりである「5ZERO」を、この日本で しでもZEROに近づけるように挑戦を繰り返していきた NECAの皆様と実現していきま いと思います。 しょう。 Q.日本のものづくり復活に必要なこととは何でしょ   うか?  私は日本のものづくりは今でも世界トップレベルだと 18 seiden 2017-特別号